アクチュアリー生涯年収の多寡の判断ボーダーは4億円?

30代で年収約1千万円という前提で、生涯年収は約4億円と試算(福利厚生、退職金考慮なし)。生涯年収4億円が多寡の判断ボーダー?
・生涯年収約4億円を達成するには、30歳(社会人8年目)に年収1千万円に到達できるかが実務的な判断基準。
理由:30歳で年収1千万円に到達すれば、30歳~60歳で3億円(1千万円×30年)の収入。30歳までの年収や退職金と合わせて、生涯年収3億円後半(≒約4億円)に概ね到達と考えられるため。
 
 

はじめに

みなさんは働き始めて自分の会社の給料が高いか低いかなど考えたことはありますでしょうか。

給料はシビアな話題であることや他社の細かい情報を知ることができないといった理由で、考えるにしても情報がない場合も多いです。

例えば友人に現状の給与を聞けたとしても、若いうちの年収の立ち上がりはよいもののその後の立ち上がりが小さい会社や年功序列で給与が増加する会社など様々な会社があり、スポットでの比較が難しいと思われます。

そこで生涯年収を用いて判断をできないかと考えますが、自分自身の生涯年収を試算したことがない人が多いため、判断に足る情報はなお集まらない場合が多いと考えられます。

そこで今回は公表されているデータを用いて生涯年収の多寡の判断ボーダーを試算してみました。

生涯年収の多寡のボーダーについて

結論

アクチュアリー(金融総合職)の生涯年収の多寡を判断するボーダーは4億円と考えます。

前提

月収

月収は厚労省で公表されている「令和4年賃金構造基本統計調査」の「産業別の賃金」(金融業,保険業かつ男の賃金)を参照しました。

参照理由:年齢別、産業別、性別毎に公表されており、金融総合職の月収として妥当と考えられるためです。

なお、賃金は厚労省HPで以下の通り定義されています。

「賃金」 
本概況に用いている「賃金」は、調査実施年6月分の所定内給与額の平均をいう。
「所定内給与額」とは、労働契約等であらかじめ定められている支給条件、算定方法により6月分として支給された現金給与額(きまって支給する現金給与額)のうち、超過労働給与額(①時間外勤務手当、②深夜勤務手当、③休日出勤手当、④宿日直手当、⑤交替手当として支給される給与をいう。)を差し引いた額で、所得税等を控除する前の額をいう。

令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況:主な用語の定義

月収から年収への換算月数

30代前半で年収1千万円という前提から逆算して算出します。つまり「1千万円÷30代前半の賃金(端数切捨て)」で算出します。算出結果は25か月となりました。

30代前半で年収1千万円は私が就活時代に多くの会社から聞いた経験によるものです。

一般的な認識(14か月~20か月程度)よりも少し多い結果となりましたが、30代前半の年収を約1千万円とするためこのまま使用したいと思います。

福利厚生(家賃補助など)、退職金、アクチュアリー手当等

会社によって異なるため、ここでは考慮しないこととします。

生涯年収表

上記前提をもとに年齢(年次)ごとに年収の推移をまとめた表は以下のとおりです。この試算から生涯年収は4.2億円~4.6億円と推計されます。

一方推計結果が過大となっている(40歳からの年収が過大となっている?)可能性も考慮し、推計結果は端数切捨てとしました。以上が結論に至った背景です。

気づき(余談)

上表から以下のような気づきがあります。

①54歳⇒55歳で月収が減少している。

②学卒と院卒では緑色、黄色網掛け部分で生涯年収に差(ここでの試算では約3千万円)がつく。

③40歳以降の年収が多い気がする(こんなにもらえるのか?)。

①は役職定年(一定の年齢に達すると役職から退く制度のこと。給与も下がります。)によるものだと考えられます。銀行に役職定年制があり、それに引きずられているものと考えます。

②は年次ではなく年齢が退職要件となっているためにおこる現象です。おそらく浪人した方や院に行かれた方はどこかで退職直前の給与がもらえなくなるなどの話を聞いたことがあるのではないかと思います。

③の背景は正直分からないです。給与水準が超一流の会社に引きずられているのか、部長などの上位役職の給与に引きずられているのかどちらかだと思っています。

生涯年収4億円のボーダーを実務的にどう利用するか?

自分自身の所属する会社であれば給与基準も参照可能と考えられますので、それを踏まえ自分自身の会社の給与の多寡をまず判断できると思います。

判断した結果、例えば生涯年収が4億円より少なく転職を決めた場合を考えましょう。

転職の面接で生涯年収はいくらか?と聞くことは難しいと考えられます。仮に聞けた場合でも自分自身の生涯年収を試算したことがない人が多いと思いますので、面接官も回答できないと思われます。

そもそもその後の昇給(有無、多寡)・昇進も不透明という状況だと思います。それでは実務的に何を判断基準にすればよいでしょうか。

実務的な判断基準

前提にもおいていますが、30歳(社会人8年目)で年収1千万円が生涯年収約4億円とみなせる一つの実務的な判断基準になると思われます。

30代で転職される方が多いそうですので、これであれば提示給与等から判断できるのではないかと思います。実務的な判断基準を上記に決めた背景は以下の通りです。

下表をご覧ください。先ほどの表を簡易的に社会人8年目以降年収1千万円、社会人8年目以前年収600万円としたものです。生涯年収は約3.3億円~約3.6億円です。

上表の生涯年収は4億円に達しておりませんが、実務的には退職金等を合算するべきだと考えられます。それらを合わせて生涯年収が約4億円となれば基準達成とみなすことができると考えましょう。

福利厚生、その他手当等については会社によって異なるため、考慮しないこととします。

退職金支給額の統計は厚労省の「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」で開示されていました(少し古いものになりますが、これ以後はおそらく開示されていません)。

上記を参照すると、退職給付(一時金・年金)制度の形態別定年退職者1人平均退職給付額は約1千万円~約2千万円となっています。

これを合算すれば生涯年収は約3.4億円~約3.8億円となるため、生涯年収約4億円を満たしたとみなせるのではないでしょうか。そのため、30歳(社会人8年目)で年収1千万円が生涯年収約4億円を達成することができる一つの実務的な判断基準になると思われます。

(そもそもですが生涯年収の平均が2億強と言われているため、3億円もらえる時点で喜ぶべきかもしれません。)

気づき(余談)

院卒は勤続年数が学卒よりも少ないため、生涯年収を増やすには転職で給料UP、一つの会社に長く勤め退職金を増やす、投資や副業を行うなどの作戦を取る必要があるかもしれません。

なお転職は現状の評価や職場・人間環境、仕事内容全てリセットして1から始めることになるので、総合的に考慮して行う必要があると思っています。

転職前提の時代ともいいますが、一律に転職が絶対に良いと言えないのかなという思いもあります(正解がないと思います)。

おわりに

今回はアクチュアリー生涯年収の多寡の判断ボーダーを試算してみました。ただ給与のみを考慮して転職といった行動はあまり好ましくないと思います。

例えば残業が少ない会社に行きたいのに、激務高給の会社に行ってしまえばミスマッチとなってしまいます。

先ほども記載していますが、現状の評価や職場・人間環境、仕事内容全てリセットとなるわけですし、ライフステージが進んでいればパートナーの同意も得にくいかもしれません。

給与の多寡ですべてが決まるわけではないため、個々人の事情の踏まえながら選択を進めていただければと思います。